2026-06-02 / 読了 8分 / 編集部
物流施設やホテルを裏付けとするSTが増えている。その背景にあるのは「会計利益とキャッシュフローの乖離」という不動産金融の基本構造と、それを分配に活かせるようになった税制の整備だ。
減価償却費は費用として計上されるが、現金は流出しない。このため償却の重い物件は、会計利益は薄いのにキャッシュ創出力は高いという状態になる。単純化した例で、投資額100の物件がNOI5.0を生み、減価償却が2.5だとすると、会計利益は2.5しかないのに手元に残るキャッシュは5.0ある。J-REITの分析で使われるFFO(Funds From Operations=利益+減価償却費)は、まさにこの乖離を捉えるための指標だ。
分配型商品の競争力は、この乖離分——償却相当のキャッシュ——を分配に回せるかどうかで大きく変わる。利益の範囲でしか分配できなければ表面利回りは2.5%の商品にしかならないが、利益超過分配ができれば同じ物件で5%の商品が設計できる。
受益証券発行信託型STでは、2026年3月まで利益超過分配の全額が配当として20.315%課税されており、償却の重いアセットほど税制上不利だった。令和7年度改正で利益超過分配が「元本の払戻し」となり当期課税の対象外になったことで、この構図は逆転した。分配5.0のうち利益2.5・元本払戻し2.5というモデルで税引後手取りを比べると、改正前の約3.98に対して改正後は約4.49。恩恵は償却の重さに比例する。
アセット別に見ると、冷凍冷蔵設備を持つ物流施設(機械装置の短期償却)とホテル(建物・設備にFF&Eの償却が乗る)が最も有利で、土地比率の高い都心一等地オフィスは恩恵が小さい。改正後の新規組成で物流・ホテル型の存在感が増すとすれば、それは税制が導いた合理的な帰結と言える。
利益超過分配は、自分が出したお金が戻ってくる部分であり、経済的な意味での「利回り」ではない。分配のたびに元本(NAV)は減少する。もっとも、減価償却の範囲内の払戻しは物件の帳簿上の減価と対応しており、いわゆるタコ足配当とは区別される——土地は償却しないため、実物価値が帳簿ほど減っていないことも珍しくない。
それでも、表面の分配利回りだけで商品を比較するのは危険だ。分配のうち利益部分と元本払戻し部分の内訳、そして物件の実質的な価値維持力を合わせて見る習慣が、この市場では従来の投資商品以上に重要になる。
本記事は制度・実務の一般的な解説であり、特定銘柄の推奨・投資助言ではありません。個別の税務判断は税理士等の専門家にご確認ください。